ZETA DIVISIONの軌跡。VCT Stage1 Mastersを振り返る【前編:グループステージ編】

2022年4月11日(月)、今年最初のVALORANT世界大会「VCT Stage1 Masters Reykjavík」が幕を開けた。

各地域の予選を突破してきた強豪12チームで争う本大会では、日本からはZETA DIVISIONが参加した。本記事では、ZETAに焦点を当ててその活躍を振り返っていく。

目次

ZETA DIVISIONとは

ZETA DIVISIONは元々Absolute Jupiter(JUP)という名前で活動をしていたが、2021年のリブランディングを経て今の名前なった。

メンバーはLaz、crow、dep、Ten、SugarZ3roの5名。Laz、crowはVALORANTがリリースされる前から共に競技シーンで活動、その他メンバーも複数タイトルで活躍した経験を持つ精鋭ぞろいだ。

最悪の結果に終わった昨年の世界大会

Laz「最悪の結果になりました。すいませんでした。」

試合後インタビュー、Lazの口から初めに放たれた一言だ。この一言が昨年のZETAの世界大会の全てを表している。

VALORANTリリース前から、ZETAはLaz、crow、Reita、takej、barceの5名で世界を目指して活動してきた。2020年の国内大会をほとんど優勝で締めくくり、翌年に開かれる国際大会に向けて順調な滑り出しを切る。しかし2021年、VCT Stage1、Stage2共にCrazy Raccoonに敗れ世界大会への切符を逃すことに。

Stage3では新メンバーのmakibaの加入もあり国内優勝。ついにZETAが世界へ挑戦する。が、結果は先ほどの通り「最悪の結果」に終わってしまう。対戦したのはKRU esports(LATAM代表)とVivo Keyd(BR代表)。KRUに対しては1マップだけ取れたが、Vivo Keydに対してはマップどころかラウンドもほとんど取らせてもらえなかった。結局どちらもBO3で敗れZETAは最速帰国組になってしまう。

Stage3 Masters Berlin敗退後、ZETAは大きな決断を下す。長年共に世界を目指してきたAbsを解散することを発表したのだ。一度は引退を考えたLazだったが、それでも競技の道を諦めきれずに前へ進む。Laz、crowが残り、LCQで活躍した旧NthのTen、SugarZ3roとRCで活動していたdepを加え、新生ZETAとして2022年VCTに臨む。

メンバー紹介

Laz

ZETA DIVISIONのチームリーダー「Laz」。26歳の彼は10年以上前から爆破FPSの競技シーンに携わる、まさにFPSに人生を捧げてきた男だ。

プロの中でも異質な視点移動の綺麗さを誇り、JPNo1プレイヤーとして評価されることも多い。つけられた異名は「クラッチキング」「GOD Laz」。カリスマ性も高く、国内のVALORANTシーンを牽引してきた一人である。

crow

crow選手を一言で表すなら「サポートのスペシャリスト」だ。スキルを入れる場所、タイミングは間違いなく国内一の練度であり、サポートキャラ(特にブリーチとソーヴァ)を使う人は参考にすると良いだろう。

Laz選手と昔から同じチームで活動しており、厚い信頼関係を築いている。

Dep(旧:RC)

OW、PUBGなど数々のFPSタイトルでトップを渡り歩いてきた「神の子」depがZETA DIVISIONのVALORANT部門にやって来た。

彼のプレイは予測不可能。自由自在に動き回り敵の不意を突くのが得意で、主にジェットやセージ、フラクチャーではヴァイパーを使用している。味方との連携も欠かさない、全てのチームが欲しがる逸材だ。

TENNN(旧:Nth)

TENNN選手は過去にOWプロシーンで活躍した経歴のある20歳のフィジカルモンスターだ。

緩急のついた動きが得意で、撃ち合いの強さは世界レベル。過去に所属していたチームでZETAと対戦した際も、レイズで試合を掌握していた。

SugarZ3ro(旧:Nth)

「日本一のアストラ使いは誰?」

そう聞けば、100人中100人が「SugarZ3ro」と答えるだろう。アビリティを使う判断、発動までの時間、立ち回り、撃ち合い、どれを取っても国内で彼を超えるものはいない。

最後まで残った時も「彼なら何かやってくれるのではないか」と思わせてくれるし、実際に何度もチームを救ってきた頼れるヒーローである。

グループステージ

アッパー1回戦 vs DRX

レイキャビクに降り立ったZETAが初めに戦うのは韓国代表DRX。DRXは元々Viion Strikersという名前で活動しており、韓国シーンを長らく牽引してきた。

相手は韓国最強だが、こちらは日本最強。同じアジア圏のチームで普段スクリムもしているし、勝つのは難しくても良い勝負はしてくれるだろう。

試合は本大会最初のマッチで、世界中から注目が集まる。初めのマップは国内無敗のアイスボックスだ。しっかり勝ち切って、勢いを付けていきたい。

アイスボックス:2 – 13

VS設置を通されてしまう。
ドライピークでキッチンへ侵入し、crowを落とすMako。

試合内容は圧倒的だった。DRXの見せるセットプレイやマップコントロール、少人数戦にZETAは全く歯が立たなかった。

国内ではCRを圧倒していたZETAの守りが、DRXには通用しない。ポイズンクラウドでミッドをコントロールしてくるため、どこに攻めてくるのか分からないのだ。また、国内ではあまり見ないKAY/Oのセットにサイト内守りが簡単に崩されるなど、力の差を感じる内容だった。

ただ、ZETAも良いところが全く無かったわけではない。LazがBメインで見せた3キル(前半最終ラウンド)や、あと少しで取れたラウンドも多かった。切り替えて次のヘイヴン戦に臨もう。

ヘイヴン:3 – 13

ファーストラウンドはLazのクラッチプレイでもぎ取り好調なスタートを切る。ところが、これが前半ZETAが取得する唯一のラウンドになってしまう。

一瞬で壊滅したAサイト内。5vs2で盤石の布陣を作るDRX。

続く2ndラウンド、DRXはセカンドバイを実行しAサイトに奇襲をかける。膝をつくDepとTEN、crowのピークも軽くあしらわれ、DRXがラウンドを取得する。

第4ラウンド、CTとAタワーからのリテイクを狙うZETA……だったが、Aタワーから降りる3人をBuZzが全て撃ち落としてしまう。流れはさらにDRXへ。

第6ラウンドではまたしてもBuZzのスーパープレイが生まれてしまった。Bサイトに設置されたスパイクの解除をもくろむZETAの3名を、ファントムのワンマガジンで倒しきったのだ。絶望のフルオートだった。

だが、このラウンドで最も注目するべきなのはBuZuのリコイルではなく、ZETAの致命的過ぎるミスである。

BuZzが3人をキルした瞬間の画像である。コズミックディバイドが展開されているのが見て取れる。手前にいたcrowは仕方なかったが、奥にいたLazとSugarZ3roは壁の展開を待たずにBuZz選手の前へ体をさらけ出してしまったのだ。もし壁が展開するまでの数秒を待てていれば、このラウンドは間違いなくZETAのものになっていただろう。

スコア差がついて動揺していたのだろうか、ZETAらしくないミスだった。

DRX相手にサイト内守りは通用しない。
DRXが得意とする設置後のクロスの配置。こうなってしまっては正面からのリテイクは難しい。

崩れ落ちるZETA、広がるラウンド差。攻守交代後も良いところを見せれず、3-13のスコアで大敗してしまう。

また、スコア以上に内容の差も大きかった。DRXがひたすら繰り返すA攻めに同じやられかたを何度もしてしまい、練度の差がはっきり出ていた。甘えた動きも目立ち、国内のチームを圧倒していたZETA DIVISIONは見る影もなかった。

やはり、日本は最弱リージョンなのだろうか。

ローワー1回戦 vs Fnatic

負けたら終わりのローワートーナメント。相手はEMEA3位通過の名門チーム「Fnatic」だ。

Fnaticは昨年世界大会で2位、ベスト8の実績を残している文句なしの格上チーム……なのだが、メンバーのBraveAFがロシア・ウクライナ情勢に関する発言で、darkeが新型コロナウイルスに感染し欠場。代わりに2名の新メンバーが出場する。

少しラッキーなことは起きたがそれでも相手はあのFnatic。DRX戦のこともあり、日本中が固唾を飲んで見守った。

フラクチャー:13 – 7 アイスボックス:13-11

  • フラクチャー:13-7
  • アイスボックス:13-11

なんと、ZETAがあのFnaticにあっさり勝ってしまった。アイスボックスは少し危ないところもあったが、フラクチャーは難なく勝利。日本が初めてEMEAに勝った瞬間である。

ただ、私はこの勝利は感動というよりは安堵に近いものだと考える。確かに相手はあのFnaticだ。だが大会直前にメンバー変更を行っており、練度が低いままこの大会に挑んでいる(それに、世界最強のデュエリストとも言われる「darke」がいない)。実際ブラジル2位のNIPに0-2で負けているし、下馬評でもZETAにそこそこ分があった。もしZETAがこの不完全Fnaticに負けていたらどうなっていただろう。また0-2で最速帰国だ。昨年悔しい思いをしたLazは、日本のVALORANTはどうなっていただろう。ZETAはこの試合に必ず勝たなければならなかった、いや勝つしかなかったのだ。

https://twitter.com/valesports_jp/status/1514017127824760834?s=20&t=mP0ll-cklfZD5Nc7RBZapQ

アイスボックスのピストルラウンドで魅せたSugarZ3roのクラッチや、Lazのワンマガエースは記憶に新しい。

ローワー2回戦 vs Ninjas in Pyjamas

勝てばプレーオフ、負けたら敗退の重要な一戦。対戦相手はDRXに敗北しローワーに落ちてきたブラジル代表の「Ninjas in Pyjamas(NIP)」だ。

ブラジル予選では、昨年ZETAを圧倒したheat率いるVivo Keydを下しており、実力は申し分ない。間違いなく苦しい勝負になるだろう。

スプリット:13 – 6

スプリットはZETAの攻めスタート。ミッドの主導権は握れたが、各サイトの守りを崩せず0-5でスタートする。しかし、ZETAの取ったタイムアウトから流れが変わり、6-6まで追いつくことが出来た。

bnj選手がBサイトで見せたクラッチ。

ただ、守りではNIPの時間をかけたミッドプッシュに対応しきれず、試合は6-13で敗北。bnjに1on2クラッチをされた時は絶望した人も多かっただろう。

スプリット:10 – 13

TENがサイト内で怒涛の耐えを見せる。
攻めの3ラウンド目。ラークしていたDep選手が油断して走ってくるbnj選手をフリーキル。

続くアイスボックス。LazとDepのオペレーター、設置遅延の動きが刺さり、守りを8-4で終える。攻めもピストルラウンドを取得しそのまま押し切り13-10で勝利を収める。特に、攻めの3ラウンド目が勝敗の決め手になっただろう。甘えた相手を許さない、depの立ち回りが光ったラウンドだった。

フラクチャー:14 – 12

勝てばプレーオフ、負けたら帰国の大事な一戦。ZETAの守りから試合が始まる。

前半0-4でリードされてしまうが、Lazのオペレーター購入から流れが変わり、5-7まで持っていく。続く後半、ZETAはピストルラウンドを落とすも8-9まで盛り返し、ようやくNIPの背中が見えてくる。しかし、ここからxandのオペレーターが火を噴きNIPが連続でラウンドを取得する。

8-12。NIPのマッチポイント。Aドアから侵入するZETAだったが、bezn1のモク抜きでLazが落とされ、3-4に追い込まれる。

モク抜きをするbezn1選手

「やっぱり世界は強かった」

「まあ、善戦はしたからいいんじゃない」

「Stage2また頑張ろう」

聞き慣れた言葉が脳裏をよぎる。しかし、日本代表ZETA DIVISIONの快進撃はここから始まる

壁抜きで倒されるbnj選手

残ったのは新加入の3名。AリンクからピークしてくるNIPを一人、また一人と倒し、サイト内で耐えていたbnjも壁抜きで撃破。人数状況はあっという間に3vs1、ZETAはラウンドを獲得する。

オフアングルでオペレーターを覗くxand選手。ZETAは警戒しA側へローテートしていく。

この勢いは止まらない。NIPは初見殺し性能の高い「バリアオーブ+オペレーター」や「スモーク+ジャッジ」を駆使し最後の1ラウンドを取りに来る。しかしZETAはその狙いを読み、不要な勝負を仕掛けずにラウンドを重ねていく。そこには、初戦で見せた甘えた動きを繰り返すZETAの姿はどこにもなかった。11-12、B地下で起こったdepのファーストブラッドに続き、ラークのTenが敵の背後を取る。5vs3。そのまま押し切りOTに突入する。

魂のOT。限られたクレジットの中Lazが購入したのは「オペレーター」。作戦は見事に機能し、Lazがファーストブラッドを獲得する。続いてTenn、SugarZ3ro、Crowが相手の横を取りついにラウンド数が逆転する。

13-12、攻めのZETAは詰め待ちの配置。しかしNIPは詰めてこない。時間をかけてのA挟み。サイト内のbezn1を倒しスパイクを設置。LazとDepが倒され2vs2。最後はAサイト下のcrowとAメインのSugarZ3roが挟む形に。フォールトライン、crowがピーク。オペレーターのxandを倒す。最後はAメインに隠れていたSugarZ3roがcauanzinを倒し14-12 ZETA WIN。

歴史的勝利。初のプレーオフ出場。「最弱リージョン」と言われ続けた日本が、自らの力で強豪たちを打ち砕きベスト8へ進出したのだ。

抱きしめ合うZETAのメンバー。日本中が歓喜した。

試合後のインタビュー。

ここまで笑顔なLazを、今までに見たことがあっただろうか。競技シーンに携わって10年以上、FPSに人生を捧げてきた男が報われた瞬間である。

満面の笑みを浮かべるLaz選手。

しかし、これは彼らの辿る軌跡の一部に過ぎない。

プレーオフ、日本代表ZETA DIVISIONの更なる快進撃に全世界が恐怖する。

(後編:プレーオフ編へ続く)

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